【連載D】国立ランブリング
たくらみの二月
小山伸二
沈丁花の枝が堅い蕾をつけて曲がる
路地を歩く
月のひかりが雲の隙間からこぼれ落ちてくる
堅い地面に
時間の螺子がやがて狂いはじめる
もう何十年もまえのこと
青白い顔の男たちが陰気にコップ酒をあおる店で
オレンジ色の電車が走る音がする
坂道と溜息のつづく町
ちいさな木造の家が並んでいた
昔、住んでいたお爺さんの家の表札を
探しまわって
乾いた咳をするひとの
左の肺が疼いたという二月
青黒い夜の空には座礁した船
それは不穏な墨色の雲だ
さいごは西にひらいて消えるだけの
なにひとつうまくいかない
いまはそう報告しろと
上司からの連絡が点滅するアラームになる
うずくまった猫の影
二月の闇に紛れてなにをたくらみはじめる
劇画みたいなわかりやすい展開のなか
いま目撃した世間をシェアするために
電車のなかで
男たちの右手は忙しい
宣伝と作戦から逃げて
言葉を蹴飛ばしていくゲーム
ちいさな子供たちの声も遠ざかっていく
夜の公園
もうこのあたりでいいでしょう
誰かが小石のような断言を置く
なにをたくらむのか
この町の二月に
詩 :小山伸二
写真:クラウドナイン
◎国立ランブリング「創作ノオト」
数十年ぶりの大雪が降ったこの町で。
二月は、なかなかいろんなことがうまくいかない。
暗いひびきの詩も、また、現実のなかでもがく二月でもある。
それでも、なけなしの希望をかき集めて、
生きつづける二月であっても
いいだろう。
かたくなな堅い蕾が、ひそかに抱えもつ「たくらみ」のなかにさえ、
ぼ
くたちは、ある種の希望のひかりを見たくなる、
そんな二月の町である。
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