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・『きっびす』木佐悠弛


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2014年02月14日(金)
【連載】きっびす(5)木佐悠弛「チョコっとだけでも(女性編)」

[・『きっびす』木佐悠弛]


【連載】きっびす(5)木佐悠弛


チョコっとだけでも(女性編)

わたしは現在、旭通りにある
「じゃらんじゃらんの森」で個展をひらいている。
きのうは、はじめて知り合い以外のお客さんが入った。
たぶん三十代前半のかただと思う。
名前も職業もなにもきかなかったけれど、とても印象的だった。
動物をモチーフにした一枚の絵をずっとながめてくれていた。
その横顔、とくにまっすぐな瞳にわたしは思わず見入ってしまったのだ。



他愛ない話をしたあと、彼は帰っていった。
けれど、どうしてもその場かぎりの出会いにはしたくなかった。
バレンタインデーまぢかということもあり、店内で売っている
“まちチョコ”を手にして、男性を追いかけた。



明日も個展をひらいていることを伝えると、また来てくれると言う。
絵をみていたときと同じように、まっすぐな視線で言っていた。
思わず、チョコを渡す手がふるえてしまった。



――きのうのことが、遠い日のように思えてくる。
きのうはいちにち、ふわふわした気持ちのまますごしていた。
きょうになって、チョコがわたしの熱で溶けてしまわなかったか、心配になってくる。



あたまを切り替えて、お客さんをうけいれる心持ちにもっていく。
昼過ぎ、わたしは販売用のポストカードをととのえていた。
がらがらっと引き戸が開かれる音がきこえてくる。



顔をドアのほうへ向けると、待っていたひとがいた。
目を細めながら、こんにちは、と男性は言う。
「こ、こんにちは」わたしは胸が高鳴る。
「きょうもありがとうございます」



男性は店内に入ってきた。
「あの絵、まだ売れていないみたいですね。よかった」
というと男性は、しまったという表情をした。
「画家さんのまえでこんなことを言うなんて失礼でしたね。すみません」
「いえいえ、いいんです。お客様が来ることを、絵もたのしみにしていたんでしょうから」



言ったあとわたしは、はっとした。
「絵も」と言ったから。わたしも、という気持ちが伝わってしまったかもしれない。
視線が泳いでしまう。



だが男性は気にとめることなく、
「それはうれしいなあ」と言った。
「ぼくは、この絵がとても気にいったんです。
 ぼくもまた会えることをたのしみにしていましたよ」

男性の目がこちらに向いたまま言うので、
わたしのことを指しているのかと勘違いしてしまいそうになる。
でも、もしわたしにぜんぜん興味がなければ、
また来てくれるなんてことはないはずよね、
なんてよけいなことをあれこれと考える。



このままだと、また名前をきかないままになってしまうと思い
、たずねてみることにした。
「わたし、画家としては『あんず』と名乗っていますが、
 本名はあんずを漢字にして、『杏子(きょうこ)』と言います。
 佐伯杏子です。お客様のお名前をよろしければ……」



「ああ、失礼しました。ぼくは国仲立哉(くになかたつや)です」
漢字ではこう書きます、と言って男性は名刺をくれた。
『国立本店 ほんとまち編集室 国仲立哉』と書かれている。
「今度、よかったらこの店にもいらっしゃってください」
「どのようなお店なんですか?」
「駅ちかくのコミュニティスペースみたいなところです。
 本の販売はしていませんが、自由に読んでいただけますし、
 貸本もあります。お店番三十人ほどで運営しています。
 あんずさんのように、イラストレーターやデザイナーといった職業のかたや、
 主婦や職業不明という面白いひとたちもいます」



ふしぎなお店だけど、興味をひかれる。知り合いばかりで
なかなか新しい出会いがなかったので、ちょっといってみたい。



「ぜひ、うかがわせてください」
「二月十四日に午後一時から六時まで店番としてお店にいます」
「時間をつくっていかせていただきます」



それから国仲さんは、きのうと同じようにあの絵をながめていた。
わたしはまた、その横顔と瞳に目を奪われてしまう。



この瞬間を、絵に描いてみたい。そして、国仲さんに手渡したい。
バレンタインデーにそんなものを贈ったら、きらわれてしまうだろうか?
ちょこっとだけでも気持ちがとどいてくれたらいいな、と思う。



できれば、たくさん。






<作者プロフィール>
木佐悠弛 (きさゆうし)
国立市在住
アーティスト、と名乗ってみたい、宇宙の流浪人。
facebook フェイスブックページ
https://www.facebook.com/yushi.writer

イラスト: ACOBA
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