【風は吹いているか 最終話】
『雨に濡れても』 高杉竜也
旭通りの終点、東二丁目の交差点で五差路になる。
南に行く道路を選択し、少し行った所で東に細い路を入る。
そこに加賀瑞穂の好きな場所がある。
一橋大学ラグビー場。
ここでラグビーやラクロスの練習を見ていると、そこにはボールと風と光しか存在していない世界があるような気がする。
瑞穂は立ち止まった。
今日は雨。
誰もいない。
濡れないように綺麗にまっすぐ立つ。
傘は透明でない自分にとって少しだけ高価なものを。
「誰もいないグラウンドを見つめながら美人がひとり何を考えているのかしら」
振り向くとそこに石塚陽子がいた。
今年の冬に谷保天満宮で出逢って以来、仲良くなった。
「あっ、こんなところで。何しているの?」
「それは私の質問でしょ。私は何もしてないよ。歩いているだけ。府中にいる友達に会いに行くの」
「歩いて?」
「そうよ。悪いかしら」
石塚陽子は笑った。
「そしてあなたこそ立ち止まって何をしているの?」
「なんにも。なんにもしていない」
「そんなことはないわ。あなたは雨を見ている」
「うん。私は雨を見ている。そうね」
加賀瑞穂は空を見た。
「じゃあね。ではでは」
陽子が通り過ぎようとするのを瑞穂は呼び止めた。
「ねえ、陽子。国立、好き?」
「なによ、唐突に。好きだよ」
「国立のハッピースポットって、どこだろう?」
「変な質問。さあ、私の立っている場所はどこであろうとハッピースポットにしたいわね」
「あなたの立っている場所?」
「そう。そしてあなたの立っている場所も。私たちはスペシャルじゃないわ。だから少なくともそう努めているの」
雨の音が聴こえる。
「じゃあね、失礼つかまつる」
石塚陽子が去り、また誰もいなくなった。
傘を開いたまま身体の横にする。
頬に雨があたる。
“ Raindrops keep falling on my head♪ ”
くちずさんだ。
先日、数年ぶりに実家に帰って観た古い映画の挿入歌。
父親に勧められるまま、西部劇というものを初めて見た。
あんな風に生きてみたい。
さてと。
腹、減った。
「三春」でがっつりと定食でも食べるとするか。
風は私に吹いている。
< 書いたひと >
高杉竜也
一年間ありがとうございました。
12話になり、ここでまずは一区切り。
1年後にまた13話から24話を書けたらいいなと思っています。
こんな拙い文章でも最後まで読んでいただいた読者の方が居ましたら、心より感謝いたします。
ありがとうございました。
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