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・『きっびす』木佐悠弛


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2014年04月15日(火)
【連載】きっびす(7)木佐悠弛「さくら色のワルツ」

[・『きっびす』木佐悠弛]
きっびす(7)木佐悠弛

【連載】きっびす(7) 木佐悠弛


さくら色のワルツ

奥手のぼくが精一杯の気持ちを伝えたのは二週間ほどまえのこと。
きょうは想いが結ばれてからはじめて、あんずさんと会う。
看板犬のいる雑貨屋の前を待ち合わせ場所に選んだ。
集合時間よりも早めに着けるように家をでている。
そうしないと心が落ち着かなくなってしまいそうだったから。
桜が並木を染めながら咲いている。
あんずさんの描いた桜の花びらの絵を思い出す。
出会いと別れの季節だとよく言うけれど、ほんとうにそうだと実感する。
この桜は、何度見ても新鮮な気持ちになるし、でも、いつも見てきたような想いにもなる。
同じ春は二度と来ないけど、いつだってぼくのために咲いてくれるのだと思えてくる。
春の香りがした。
ほかの季節にはけっしてない、心をいっぱいに満たしてくれる香り。
待ち合わせたお店の前に女性がいる。
あんずさんだ。
店の前にある桜の木に寄りかかるようにして立っている。
ぼくよりもさらに早く来ていたみたいだ。
待たせてしまったかな。
すこしあせる心をなんとか落ち着かせよう。
春風が吹いてきた。
あんずさんの長い髪がなびく。
それは一枚の絵を切り取ったみたいだ。時が一瞬静止した。
同じ春は二度と来ないから、この光景と香りとその他すべてを焼き付けておきたい。
そして、来年の春もワルツを踊るような季節をふたりで迎えたい。







<作者プロフィール>
木佐悠弛 (きさゆうし)
国立市在住
アーティスト、と名乗ってみたい、宇宙の流浪人。
facebook フェイスブックページ
https://www.facebook.com/yushi.writer

挿絵:かりん(ててごと)




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