連載小説
【風は吹いているか 第7話】
『デニムを履いたら大学通り』 千野龍也
古賀瑞穂は空を見た。
今年の空は去年の空よりも青い気がする。
去年の暮れに親友が故郷に帰った。
瑞穂はその松尾由美の部屋に居た。
「ほんとに帰るんだね。実感が湧かないけど」
「今では楽しみのほうが大きいよ。日本を離れて日本の良さを知るっていうけど、福岡を離れて福岡の良さを知った。同じ福岡でももうまえの私ではないよ」
「そうだね。ところで由美、ひとつアイディアがあるんだけど」
「アイディア?」
「新年になって、同じ日の同じ時間に天神様で初詣しよう」
「おっ、面白いね!グッドアイディア!」
「私は谷保天満宮」
「私は太宰府天満宮」
二人は同時に頷いた。
「これ、もしかして」
「なに?」
「瑞穂、このデニムを履いてみて」
松尾由美はスーツケースにしまおうとした色褪せてほころびのあるデニムのパンツを瑞穂に差し出した。
「これを?今、履くの?」
「そう、履いてみて」
瑞穂は隣の部屋に移り、デニムのパンツに履き替えた。
そして、わあっ!と驚きながら大きく笑いながら由美のいる部屋に戻った。
「やだこれ!私にぴったりだよ!」
「やっぱりね。悔しいけど私には少しきつくなってきたの。それ、瑞穂が履いて。国立にそのデニムだけを残す。あなたがそれを履く。この国立で大股に歩くの。今度は私のアイディアの番よ。グッドアイディアだと思わない?」
そして年が明け、約束の日時は今だ。
名前の知らない鳥が青い空高く飛んでいる。
古賀瑞穂の順番が来た。
お辞儀をし、柏手を打ち、目を瞑る。
「親友の松尾由美が福岡に戻りました。福岡県太宰府市なのです。私たちは天神様で繋がっでいるのです。
彼女が福岡でたくさん笑いますように。
そして私はまだまだ国立で頑張るつもりです。
私もこの一年が輝けますよう、由美の分をおすそ分けください。
何卒お願い致します」
約束は完了。
さて、これからどうするか。
おみくじに興味はない。
吉だろうが凶だろうが、歩くしか道はないんだ。
甲州街道に出た。
国立駅まで歩こう。
このデニムに新年の大学通りを歩かせる。
瑞穂の正面から冷たく澄んだ北風が吹いてきた。
目にゴミが入ったのか、目頭が熱くなる。
空の青とデニムの青。
貴方の歩幅と私の歩幅。
ぴったりシンクロしているよ、由美。
くたばらない。
私がこのデニムを履いているかぎり。
〈書いている人 : 千野龍也〉
雑誌を眺めていたら、ある広告の「denim」という文字が目に飛び込んできました。
そのポスターを眺めながら、これで1月は書けるのではないかと想像します。
デニムを履いたら何処かを歩かなければならない。
デニムを履いて部屋に居るのはないだろう。
そして、「デニムを履いたら大学通り」となりました。
そこまで決まれば、あとは主人公を歩かせてみるだけでした。
≪バックナンバー≫
【連載】短編連作小説「風は吹いているか」千野龍也
◎第1話 『30分で決められる』
http://ameblo.jp/kunitachihappyspot/entry-12180640222.html
◎第2話 『わたしと遊びなさい』
http://ameblo.jp/kunitachihappyspot/entry-12187524335.html
◎第3話 『9月になれば』
http://ameblo.jp/kunitachihappyspot/entry-12200072505.html
◎第4話 『ハッピースポット』
http://ameblo.jp/kunitachihappyspot/entry-12206663860.html
◎第5話 『さくら通りを10往復 秋』
http://ameblo.jp/kunitachihappyspot/entry-12217372602.html
◎第6話 『ホットココアをくださいな』
http://ameblo.jp/kunitachihappyspot/entry-12229005392.html
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