【連載】WEB小説 きっびす(12) 木佐悠弛
『春色の中を駆け抜ける』 木佐悠弛 作
四月が始まってまもなく、桜の花は散ってしまいました。
あたたかい日々が続くかと思った矢先、すぐに寒い日が来て、
気温が上がったり下がったりしています。
この季節はわたしの気分も上がったり下がったり。
桜を見上げて、よし今日も頑張ろう、なんて思っていた時季は
あっというまに終わってしまったのです。
でも、散ったあとも桜の花びらを目にすることができるのだと、
桜並木を歩きながら思いました。
地面が桜色に染まっているからです。
また失敗しちゃったな、と、うつむいて歩いていたわたしにとって、
春がふたたび舞い込んできた瞬間です。
そして、ふと桜の木を見上げてみました。
葉桜が陽射しを浴びて青々と輝いています。
花びらの繊細さとは違い、葉桜からはたくましさを感じます。
なんで今まで、花が散ったら春は終わりだと考えていたのだろう、と思いました。
春は、色や形を変えてちゃんと続いています。
来年もまた咲き誇れるように、未来へ向けてこうして今を生きているのです。
上を見ても下を見ても、風景は広がっていることに気づきました。
上がったり下がったりする毎日ですが、
そのどちらも「わたし」という風景なのでしょう。
ものごとが走り始めるときには、いろいろと気づきがあります。
あ、葉桜の中に花がひとつだけ残って咲いているのを見つけました。
なんだかわたし、春の真ん中を駆け抜けたい気分です。
<作者プロフィール>
木佐悠弛
(きさゆうし)
国立市在住
アーティスト、と名乗ってみたい、宇宙の流浪人。
フェイスブックページ
初の短編連作集
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お問い合わせ先
joul.concerto@gmail.com
国立情報WEBマガジン くにたちハッピースポット
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