【連載N】国立ランブリング
冬の匂い
小山伸二
いつ見た夕焼けなのかを忘れた
あれはきれぎれの雲のように
語りつくせない感情が紐になって
言葉に結ぶことができない
心と呼ばれる場所で
大切にしまったはずなのに
禁断の箱を開けてしまった時から
始まるぼくたちの時間を
神話のカタチにして今日に
伝承して来た
そのことを教えてくれたひとも
とうの昔に消えてしまっている
まるで失われた足跡
見えない影を嗅ぎまわるぼくたちは
帰り道を忘れた老いぼれ犬
とぼとぼと
すがる杖も標もないまま
吠えることも忘れた老いぼれた犬
蜜と乳
大陸のあちこちに散らばって行った
ぼくたちの時間は
途方もなく
長くて
一瞬の旅の途上というのに
信じることが
形をまとうことなく
深まる空の藍色ににじむ朱をまとっていく
あいまいに溶けてしまって
冬の匂いを感じたい
あなたの胸のなかで
どんな山間の村の煙突からも
煙はあがることはないのだから
帰り道を忘れたぼくたち
寒い竃でにスープの鍋が
食卓の堅い皿のうえ
ほどよい具合に焼けたパンがあるという
冬の匂いを
感じることができなくなったぼくたちの町に
一月もやがて閉じる
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◎国立ランブリング「創作ノオト」
そして新年が巡って来た。一月。
国立の一月は、雪のなかで終わろうとしている。
この列島で、世界で、辛いニュースが流れている一月。
なかなかうまく物事は運ばない世界のなかで、一月が、
国立の一月が閉じようとしている。
だから、せめて、いまは祈りのようにして、この冬の
匂いを抱きしめたい。
小山伸二
国立在住。詩人。福間塾に参加。
最新詩集『きみの砦から世界は』(思潮社・刊)
クラウドナイン
小山伸二と清水美穂子による詩と写真のコラボユニット。
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