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・『きっびす』木佐悠弛


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2014年10月08日(水)
【連載】WEB小説 きっびす(9)木佐悠弛「翼は月明かりのもとで」

[・『きっびす』木佐悠弛]
WEB小説 きっびす(9)木佐悠弛
【連載】WEB小説 きっびす(9) 木佐悠弛

翼は月明かりのもとで

駅から徒歩五分のところに、半年ほどまえにカフェができたらしい。
情報通の親友クゥが言っていた。



「アイなら出会えるかもねー」


――ん? なにに?
そうきいてもクゥは答えてくれない。



「まあ、行ってきなよ。とてもいい雰囲気のカフェだから」


単純にカフェが好きなわたしは、よくわからないまま休日に
そのカフェに行くことにした。



土曜日の八時。バイトが終わって時間のできたわたしは、
クゥから聞いたとおりの道のりをたどってお店にやってきた。



お店のドアを開けるとベルが鳴った。


「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」


女性の店員が笑顔で言う。
わたしはてきとうな席に腰かけた。



バイト先で軽くまかないを食べてきている。
とうふパンケーキセットを注文することにした。



コーヒーに入れるミルクの量は、
月の満ち欠けによって表現されているらしい。
ミルクの多いものが好きなわたしは、
「満月」を頼むことにした。
店員の女性にコーヒーを運ぶタイミングをきかれたため、
パンケーキといっしょに持ってきてもらうことを伝える。



シェフの男性がカウンター越しに
「きょうは満月なんですよ」とわたしに言った。



満月……。
わたしはポロっとつぶやく。
月について全然意識をしたことがなかった。



「満月の日には、心も身体も浄化されるという話がありますね」
シェフは調理をしながら話を続けた。


話しやすそうなかただな、と思う。


「親友に紹介されてこのお店にきました」
わたしはシェフに伝えた。



「そうなんですね。ありがとうございます。学生さんですか?」


「はい。いま三年生です」


「じゃあ、もしかして、その親友ってクゥちゃんでしょうか?」


え、とわたしは思わず声をもらした。


「たまに来てくれるんです。よく親友の話をされていますよ。
今度親友を連れてきますね、と言っていたところだったんです」



「あ、わたし、アイって言います。わたしの話を……?」


「はい、そうですね。アイとどこに行った、なにを話した、
という話をよくされています」



――クゥがわたしのことを話してくれていたんだ。


なんだかうれしくなる。


クゥのことを考えたり、
店内を見回していたりするうちに、
料理が完成したらしい。
女性が運んできてくれた。



コーヒーは「満月」というように、丸い表面全体が白い。
ひとくち飲んでから、ナイフとフォークを手にする。



クランベリーとラズベリーのソースがかかっている。
切り分けて口に入れると、甘酸っぱい香りが口いっぱいにひろがった。



生地はとうふで作られているということでふんわりとしている。


ゆったりと味わった食後、席を立とうとしたとき、シェフが口を開いた。


「テーブルに飾ってあるお花を一輪、ぜひお持ち帰りください。
満月の夜のサービスです」



赤いガーベラが二本グラスに飾られている。


ガーベラを手に取り視線を送ると、
『ぜひ』という表情でシェフは口元をゆるませた。



そのままお会計を済ませてドアを開ける。


一歩外に出ると、白い月明かりが足もとに落ちていた。
手にしている花にも月光が当たる。



すると、花びらが二枚、するりと抜けるように空を舞った。
それは対になり、翼のように形作る。
光の球体が生まれ、花びらの翼とひとつになる。



目を奪われているうちに、「それ」は
ひと筋の月光をたどるように天高く昇っていった。



わたしは空っぽになったあたまで月のほうを見ていた。


――出会いましたね。


うしろから声がする。ふりかえるとシェフがいた。


「あれはこの店に宿る月の妖精です」


「妖精……」


「満月の夜、ときどき現れるんです。
もちろん誰にでも会えるわけではありません」



ラッキーですね、とシェフは言った。


わたしはクゥのことばを思い出していた。
――アイなら出会えるかもね。



「クゥっていうことばは」とシェフは突然言いはじめた。
なんだろうと思いながら耳をかたむける。
「フィンランド語で『月』を意味します」



「クゥ、月……」
しぼりだすように、わたしは言った。



「そして、お客様のお名前はアイとおっしゃいましたね」


「はい……」
なにを言われるのかと真っ白のあたまで考える。



「アイということばも、トルコ語で『月』を意味します」


「えっ」


わたしはなんて平凡な名前なのだろう、と思いながら生きてきた。
でも、月という意味があったなんて、まったく知らなかった。



「アイ……」


そう言いながらわたしは、
この名前が自分のものではないような気がしていた。
うまくは言えないけれど、月から与えられたような……。



「はじめてこのお店で妖精を見たのはあちらのスタッフです」


女性に目を向けると、彼女はにこりと笑っておじぎをした。


「彼女の名前はルナです。イタリア語で、やはり『月』という意味です」


わたしとクゥは月の引力で出会ったのかもしれない、と思いはじめている。
そして、同じ意味を持つひとがここにも……。



「当店の各テーブルにはそれぞれことなる花を飾っています。
お客さまがお選びになったテーブルのものは赤いガーベラです」



わたしは手のなかのガーベラに視線を落とす。


「赤いガーベラの花言葉は『神秘』です。今夜のようですね」


胸のあたりがあたたかくなったわたしは、
ガーベラを月に届くように高くかざした。


赤い花が、また月に照らされる。






<作者プロフィール>
木佐悠弛 (きさゆうし)
国立市在住
アーティスト、と名乗ってみたい、宇宙の流浪人。
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