【国立】富士の見える道よ、永遠なれ　伊藤次郎の中央線散歩（７）




東京近辺にお住まいの方、日々の暮らしの中で


ふと「今日は富士山が見えるかな？」と思い立ち


通勤電車の車窓を凝視してみたり


ビルの向こう側の景色に、山の姿を追い求める…


そんな経験、きっとあることでしょう。




そんな人々の思いが凝縮されるのか


富士見町、富士見通り、ふじみ野市…


富士山ビューポイントを示す地名、関東地方には


数え切れないほど見受けられます。




人はなぜ、そこまで富士山に惹かれるのでしょう？


実に不思議なものです。







ここは国立学園都市


この街にも「富士見通り」があります。


国立駅の南口ロータリーから、放射状に伸びる幹線道路の一つ


西南西へ向かって、富士山頂まで定規を引いたような直線道路です。




空気が澄んで晴れ渡った冬のある日


冨士見通りの彼方に、かの山の頂を見ることができました。


信号機や道路標識、張り巡らされた電線が


どうしても避けられず、悪戦苦闘しつつも


夢中になってカメラのシャッターを切りました。





『この辺は昭和の初め、赤松が生い茂る綺麗な景色でしてね。


そこから宅地の分譲が始まって


商科大学ができて、新聞社の社宅ができて…


都心から来た知識階級というか


インテリ層の人々が家や別荘を建て始めて


今の学園都市を造っていったんですよ』




撮影後、学園通りの老舗喫茶店「ロージナ茶房」で


コーヒーを飲んでいた時


隣の席のおばあさんが教えて下さいました。


（何と、国立生まれの国立育ち、御歳８３歳だそうです）




そんなお話に耳をかたむけると


街の造成が始まったころ、何にも邪魔されることなく


赤松林の向こうに高々とそびえる富士の姿が


まぶたに浮かびます。




大正時代の末に出回った、国立学園都市・分譲案内パンフレットには


トマス・モアの「ユートピア」（理想郷）にこの街をなぞらえつつ


次の一節がしたためられています。




『大学町一帯は南向緩傾斜の理想的処女地で


土佐絵のやうに美しい赤松の大樹が多く、富士も眺められて


北に東村山の大湖沼公園あり…（中略）…


小金井の桜花郷もほど近い形勝地であります』




街を造成した人、家を建てて移り住んだ人


この街の誕生に関わった多くの人々が


抜群の生活環境を求め、理想郷づくりに情熱を傾けた歴史が


ここにはあります。




きっと、この理想郷には「富士が眺められること」が


とても大切な要素だったのでしょう。





時は移ろい、本当に富士の姿が見える場所が街から消えゆく中


ここ国立の「富士見通り」だけは、ここに住む人々の思いをつないで


いつまでも富士が見える道であって欲しい…そう願うばかりです。




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◇ WEB ネーム　伊藤次郎


◇プロフィール


仙台出身。国分寺市の人情と自然に魅了され、 2013 年秋から 2 年間在住


その間、中央線沿線の街歩きと、まちづくり活動を満喫


現在は故郷の仙台に帰り、ソーシャルビジネスでの起業を模索中










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